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脊髄ショックとは
脊髄ショック(スパイナルショック:Spinal Shock)とは、脊髄損傷のあと、損傷を受けた部位に相当するレベルの運動や、知覚の機能が消失し、さらに脊髄反射が消失してしまう状態を指します。
通常脊椎への外傷の結果、脊髄損傷と脊髄ショックが発生します。脊髄の虚血もまた、脊髄ショックを引き起こす可能性があり、例えば、集中治療室(ICU)での血圧が低下した場合や、脊髄を供給する動脈に血栓性閉塞が発生した場合などです。
併存する病気、脊髄損傷の程度、関連する損傷、患者の年齢、損傷の種類によって、その後の見通しは異なります。
24~48時間以内に麻痺が回復することもあれば、状態が戻らない場合もあります。なお、24~48時間を超えて回復が認められない場合の多くは回復できない可能性が高くなり、長期間のリハビリテーションが必要になります。
脊髄ショックの原因とは?
脊髄ショックは、何らかの外傷により脊髄が完全に損傷された患者さんでみられます。
交通外傷の他に水深の浅いプールへの飛び込み時に顔面をプールの底にぶつける、体操やスノーボードで頭部から墜落する、ラグビーなど激しいスポーツのプレー中に頚部に激しい衝撃が加わることで脊髄ショックが起こる可能性ががあります。
発症するメカニズムについて
脊髄ショックのメカニズムの詳細は、いまだによくわかっていません。ただし動物モデルの研究によると、損傷を受けたときの脊髄には大きな異常を認めないこと、最初の損傷から4時間以内には出血性病巣が現れ、その後生じた浮腫が受傷後3~6日目にピークを迎えることがわかっています。MRIで確認すると、受傷後2週間ころまで浮腫が認められています。
脊髄ショック期の症状
脊髄ショック期の症状としては、カテコールアミンの放出による一過性の血圧上昇が起こります。
また、受傷した神経レベルより下の神経が完全に麻痺します。筋肉は動かなくなり(弛緩性麻痺)、感覚も障害されます。尿閉、および便失禁もみられます。
次の症状としては、脊髄の損傷レベルより下レベルの血管が開き、その結果血圧が下がります。通常、血管が開くと脈は速くなりますが、脊髄ショックのときは交感神経が障害を受けることもあり、一般的に脈は遅くなります。
なお血管が開くことから、陰茎への血流が増加し、持続的な勃起を起こすことが多くみられます。
脊髄ショックはだいたい24時間から48時間で離脱しますが、脊髄ショックの時点で、その後完全麻痺になるのかどうかは予測できません。
脊髄ショックを離脱してもなお四肢の完全麻痺がある時は、回復する可能性は低いと考えられます。この時点で麻痺が部分的にでも改善しているようであれば、回復する可能性があります。
麻痺が改善する場合は、おおよそ受傷後4時間以内に回復してくることが一般的です。
では、詳しく見ていきましょう。
運動・感覚機能の低下
脊髄ショックでは受傷した脊髄のレベルよりも下の神経との伝達ができなくなってしまうので、運動をすることができなくなってしまいます。
筋肉には力が入らなくなってしまうので、ふにゃふにゃとした弛緩性麻痺と呼ばれる状態になってしまいます。
さらには、痛みや温度、触覚などの外界からの刺激を受容することができなくなってしまいます。これらの症状は脊髄損傷の程度を知るための指標とされますが、脊髄ショックの時には、この症状がはっきりと測ることができないという注意をしなくてはいけません。
尿閉や便失禁
自律神経系と呼ばれる自分の意思とは関係なく、身体の機能を保つ働きをしている神経も障害されます。
自律神経の支配している身体の機能の中には、排尿や排便が含まれているので、尿閉や便失禁を引き起こしてしまいます。
尿閉というのは、その名の通り、尿が出なくなってしまう症状なのですが、これは脊髄ショックによって、尿を溜めている膀胱や尿を排泄する尿道が弛緩してしまうために、体外へと排尿することができなくなってしまうのです。
尿が出なくなってしまう一方で、便は出てしまうのは、便を堪えるための肛門括約筋という筋肉が弛緩してしまう仕組みがあるからです。
血圧の低下
脊髄ショックでは、まず、カテコールアミンと呼ばれる血圧を上昇させる物質が放出されることによって、一過性に血圧上昇が起こります。
一方で、脊髄ショック期では、先ほど説明した自律神経系の異常の中でも、交感神経からの信号が途絶えることによって、脊髄の損傷レベルより下レベルの血管が開き、その結果血圧低下が起こります。
通常、血管が開くと脈は速くなりますが、脊髄ショックのときは交感神経が障害を受けることもあり、一般的に脈は遅くなります。
なお、下半身の血管が開くことから、陰茎への血流が増加し、持続的な勃起を起こすことも知られています。
麻痺性イレウス
自律神経の機能不全は消化管にも、影響を及ぼします。脊髄ショックの症状として挙げられるのが、麻痺性イレウスです。
イレウスというのは、腸管の中の内容物が流れなくなった状態です。麻痺性イレウスというのは、普段であれば、自律神経により支配されて、内容物を動かすための蠕動運動をしている腸が動かなくなってしまった状態のことです。
脊髄ショックの治療
脊髄ショックの患者さんの血圧が低い場合、まずはその治療が必要です。大量出血が伴う可能性もあり、まず輸液による治療が行われます。そのほか、酸素の投与も必要となります。
脊髄ショックの患者さんに、ステロイド(メチルプレドニゾン)を大量に点滴で使用する治療が行われることがあります。
その効果には、まだ議論のあるところですが、患者さんが若く、ステロイドの使用によって悪化する可能性のある基礎疾患がない場合は、メチルプレドニゾンを短期間で大量に使用する治療が選択されます。
このほか頚椎損傷の状況により、横隔膜の機能が低下し、自分で呼吸することができなくなることもあります。そのため呼吸をサポートするために気管挿管を行い、人工呼吸器による管理も行います。長期間人工呼吸器が必要となる場合は、気管切開も必要となります。
また脊椎の骨折に対する治療も必要となります。なかには、脊椎を安定させる手術が必要になることもあります。
脊髄ショックの離脱の判定
脊髄ショックの離脱を判断する際は、球海綿体反射や肛門反射を確認します。脊髄ショックはだいたい24時間から48時間で離脱しますが、脊髄ショックの時点で、その後完全麻痺になるのかどうかは予測できません。
脊髄ショックの期間
脊髄ショックの発生後、おおよそ24時間~48時間(1日~2日)経過することで、下記のような反射が見られることから、狭義の脊髄ショック期を離脱するため、脊髄ショックの期間も24時間~48時間程度ということができます。
一方、脊髄損傷受傷後の呼吸障害という観点から見ると、下記のグラフのように、受傷後は呼吸筋の麻痺や、麻痺性イレウス、自律神経障害などによって呼吸機能が低下します。障害の程度は脊髄損傷レベルによって異なりますが、受傷後おおよそ5週~2ヶ月経過することで、呼吸機能の回復が見られます。そのため、広義の脊髄ショック期からの離脱期間として、数か月程度とみなされる場合もあります。
この記事では、球海綿体反射や肛門反射が見られる24時間~48時間を脊髄ショック期として解説しています。

出典は、CLINICAL REHABILITATION 26巻5号 2017年5月15日 p.440-446 詳しくはこちら
球海綿体反射
球海綿体反射は、陰茎あるいは陰核の亀頭部を圧迫すると肛門括約筋が収縮する反射です。
脊髄ショック時には自律神経の異常により、肛門は完全に弛緩していますが、脊髄ショックを離脱すると、球海綿体反射が認められるようになります。この反射があれば、脊髄ショック期を離脱したと判断することができます。

肛門反射
肛門反射は肛門付近の皮膚を擦過したときに、肛門括約筋が収縮する反射のことを指します。この反射も球海綿体反射同様に脊髄ショックの離脱の判断のための指標となります。
脊髄ショック離脱後の経過
脊髄ショックを離脱すると、運動や感覚機能がどの程度脊髄損傷によって損なわれているのかを評価することができるようになります。脊髄ショックを離脱してもなお、四肢に麻痺や感覚の異常がある場合には、今後リハビリテーションにて回復を目指します。
脊髄ショック後5週~2ヶ月を脊髄損傷の回復期と呼びます。この頃になると、脊髄ショック期に消失していた反射が再び現れるようになり、また、麻痺したエリアの筋肉が強く収縮した状態(痙性麻痺)となります。
受傷後3~4ヶ月ごろを過ぎれば、慢性期と呼ばれる時期になります。多く患者さんは、この時期までに排泄の訓練や日常生活のための訓練を終えていますので、自宅に戻ることになります。
脊髄ショック離脱後のリハビリテーションと介護
脊髄ショック離脱後から回復期にいたるまでの脊髄損傷の急性期には、全身管理を行いながら、できるだけ早い段階からリハビリテーションを始めます。先ほどの痙性麻痺などを防止するために、他動的に関節を動かす関節可動域訓練や、褥瘡の予防、呼吸や痰の除去などの肺理学療法を始めます。
急性期を脱して、回復期になると、自分の力で身体を動かすためのリハビリテーションを行うことを始めます。脊髄損傷の障害レベルにもよりますが、寝返りや起き上がり、プッシュアップ、坐位の移動や、車椅子乗車などの練習を行いつつ、食事や更衣、排泄などの日常生活の訓練も可能な範囲で行います。
慢性期には障害を持つ方を中心に、同時にご本人を支える家族へのサポートも重視しながら、心理的サポートを通して、社会復帰を目指します。
自宅で介護する場合には、ベッドから車椅子への移動、排泄の介助などは、適切にできる方法をどのようにするのかなどを医療機関から指導を受けることができます。
また、介護をする方の身体的負担を軽減するための介護サービス、金銭面での負担を軽減するための介護給付や訓練等給付は、ご本人の症状の程度や種類によって多岐に渡ります。
ご家族で全てを解決しようと考えるのではなく、入院していた医療機関、かかりつけ医、また自治体の福祉課に連絡し、ご家族の状況やご本人の状態にあったサービスを受けることができるように相談しましょう。
まとめ
脊髄ショックの原因、症状、治療、また離脱の判定方法などについて、ご説明しました。脊髄ショックは脊髄損傷に伴う、一過性の運動、知覚機能の低下と、脊髄反射の消失です。患者本人や家族は脊髄ショックと、そして、脊髄損傷と向き合わなくてはいけません。この記事から脊髄ショックについて知っていただき、脊髄損傷のリハビリテーションの大切さや周りの人の協力の重要性を感じて、今後の生活を考える助けになれば幸いです。
この施術ページの監修医師

貴宝院 永稔(きほういん ながとし)
医療法人慶春会 福永記念診療所 部長
ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役
学歴・職歴
- 平成15年3月
- 大阪医科大学卒業
- 平成15年5月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修
- 平成17年4月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修 修了
- 平成17年5月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科)レジデント就任
- 平成19年3月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科) 退職
- 平成19年4月
- 大阪医科大学大学院医学研究科(リハビリテーション科)入学
- 平成21年4月
- 医療法人伯鳳会 はくほう会セントラル病院 入職
- 平成23年3月
- 大阪医科大学大学院医学研究科卒業
- 平成30年2月
- 福永記念診療所 部長に就任





