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Muse細胞(ミューズ細胞)とは
Muse細胞のMuseは、Multilineage-differentiating Stress Enduringから作られた言葉です。
東北大学の出澤真理教授らのグループによって2010年に発表された細胞で、人間の骨髄、末梢血、あらゆる臓器の結合組織に存在しています。
Museという言葉から想像されるMuse細胞の特徴は、多系統の細胞に分化できる(Multilineage-differentiating)こと、そして生体内でのストレスに耐える能力を持っている(Stress Enduring)ことだと考えられます。
続けて、その特徴を3つご紹介いたします。
生体由来の多能性修復幹細胞である
まず最大の特徴は、生体由来の多能性修復幹細胞であるということです。
骨髄、脂肪組織、真皮、末梢血など、ほぼすべての臓器の結合組織に存在するMuse細胞は、損傷を受けた組織を修復する機能を持つ幹細胞です。
組織が損傷されると、骨髄から末梢血に動員されたMuse細胞は、損傷部位に集まる性質があります。そしてMuse細胞は、損傷を受けた組織における炎症など組織が攻撃されるような環境を生き延びることができ、損傷を受けた組織の修復を助けます。そしてMuse細胞の修復作用は、脳、心臓、肝臓、腎臓、皮膚など様々な組織で報告されています。
またMuse細胞には神経細胞を含むさまざまな種類の細胞に分化する再生能力があります。どの臓器の結合組織からMuse細胞を採取するかによって、分化していく傾向に違いがみられるため、治療目的に応じて使用するMuse細胞を選択する必要はありますが、脳出血に限らずさまざまな疾患に対する幹細胞治療の可能性を秘めています。

免疫調整機能を有している
Muse細胞には、免疫調整機能が備わっています。
通常提供者からの組織を移植すると、移植された人の免疫機能によって攻撃を受けることがないように、免疫抑制剤を投与する必要があります。
しかしMuse細胞は胎盤の免疫調節に関連する分子であるヒト白血球抗原を発現しているため、免疫抑制剤を使用せずに、移植を受けた人の体内で機能的な細胞として生存し続けることが可能となっています。
腫瘍化のリスクが非常に低い
腫瘍化のリスクが非常に低いという特徴もあります。
iPS細胞などのように、多能性を獲得するために遺伝子導入を行うと、将来の発がん性が懸念されるところですが、Muse細胞は治療を目的に投与する前にこのような操作が必要ありません。提供者の細胞を点滴で投与することで、損傷を受けた組織に集積し、その場でその細胞に合わせた修復を行いますので、発がん性は非常に低いと考えられています。
このほかにも、修復を必要とする組織における抗炎症作用、血管や組織の保護作用などを有していること、さらにこれらの特徴や効果を長期間にわたって保持し続けることがわかっており、再生医療において無限の魅力を備えた細胞として注目を集めているのです。
Muse細胞を用いた脳卒中(脳梗塞・脳出血)治療
ご紹介したように、再生医療の切り札としての魅力を持つMuse細胞。Muse細胞の多能性分化能力を活用し、Muse細胞を用いた治療は、急性心筋梗塞、脳卒中、慢性腎臓病、肝臓病など幅広い疾患で検討されています。
では実際にどのような効果があるのでしょうか。まだ現時点では広く患者さんに使用できる段階ではありませんが、いくつかの研究が発表されていますので、ご紹介します。
脳卒中(脳梗塞・脳出血)に対する治療
Muse細胞は、脳卒中に対する再生医療の治療法として、最も有望な細胞のひとつであると考えられています。
まずMuse細胞は、骨髄の間質細胞から容易に分離することができます。分離した細胞は、特殊な処置を施した上で、点滴を通して治療を必要とする患者に投与されます。その際、通常の骨髄移植では必要とされるヒト白血球抗原のマッチングや長期の免疫抑制は必要がありません。
Muse細胞による脳梗塞治療の治験結果
Muse細胞による脳梗塞の患者さんに対する治験は、東北大学脳神経外科で2018年9月に開始されました。
脳梗塞を発症してから14日~28日の患者さんで、一定の症状が残る方を対象にした試験です。
点滴からMuse細胞を1回投与し、その効果を52週間(1年間)追ったもので、2021年5月に試験完了となりました。
結果はMuse細胞の治療が有効であることを示すもので、投与後1年muse細胞を投与した群では22人のうち15人(68.2%)が改善したのに対し、治療しない群では8人中3人(37.5%)が改善したと報告されています。
そのほか職場復帰できる、ほぼ正常な状態、と判定されるような著しい回復を見せた方は、すべてMuse細胞を投与された方だった、上肢と下肢では特に上肢で効果的だった、などの点が報告されています。
(出典:https://www.lsii.co.jp/assets/pdf/20210518-1.pdf)
この結果をもとに、開発元は「規制当局と相談しながら、開発を一層推進していきます」と述べています。
点滴から1回投与するだけで治療効果がある、非常にインパクトのある治験結果であるといえます。

Muse細胞の問題点
Muse細胞は実用性や安全性が高いと期待されており、現在のところ大きな問題点は指摘されていません。
ただし実用性、安全性がいくら高くても効果がなければ意味はありませんよね。
Muse細胞は、ES細胞やiPS細胞とは異なり、増殖能力には限界があります。
ES細胞は理論的には無限に増殖できますが、Muse細胞は一定のところで増殖を停止することが分かっています。
その点で、再生医療としての効果がどうなのか、検証が必要です。
必ずしも増殖能が高い=効果が高いという訳でもない(再生医療の効果は様々な機序で発揮される)ため、今後の治験の成果が期待されるところです。
現在の法律では他人から採取した幹細胞を用いたMuse細胞を商用として使用することはできないため、皆が受けられる一般的で安価な治療となるためには、法律の整備なども課題となります。
Muse細胞の実用化
Muse細胞は、実用性が高い細胞であると考えられます。
その理由は、次の3つの点にあります。
点滴投与で治療が可能
Muse細胞は、組織が傷害された時に出される警報シグナルに反応することができます。
警報シグナルを感知し、自ら傷害部位に移動することができます。
つまり点滴から投与するだけで、悪い場所を治療することができる可能性があります。
直接移植しなければいけない場合、脳梗塞であれば頭の骨を開くなど大がかりな処置が必要です。
点滴投与で治療可能というのは、非常に実用性が高いポイントです。

ドナーから採取したMuse細胞で治療が可能
Muse細胞は免疫調整作用があるため、自分の細胞でなくとも投与可能です。
自分の細胞を移植する場合、準備に時間がかかります。
けがなどの傷害ではすぐにでも治療を行いたいという状況が考えられますので、いつでも投与できるようにストックしておける、という点は実用化に向けて重要なポイントと考えられます。
安全性が高いと考えられる
実用化に向けては、安全性の確保が重要です。
muse細胞は、そもそもが間葉系幹細胞の中から発見されたものです。実際培養した骨髄由来幹細胞には、1.1%程度のmuse細胞が含まれています。また、骨髄由来のmuse細胞は脂肪由来のmuse細胞に比べて神経分化や再生効果が極めて高いことが報告されているなど、培養の元となる組織によってmuse細胞の特性には違いがありそうです。間葉系幹細胞を使用した研究や治療実績はすでに数多く積み重ねられており、安全に治療が行われています。
その点、muse細胞の安全性は見通しが明るいといえます。
Muse細胞とiPS細胞の違い
Muse細胞とiPS細胞は根本的に異なるもので、多くの性質に違いがありますが、実用性を考える上で重要なのは、腫瘍化の有無です。
人工的に細胞に遺伝子を導入することで、多能性をもつ幹細胞に戻す(脱分化)ことに成功したのが、iPS細胞です。
iPS細胞は理論的には体にある全ての細胞になることができ、無限に増殖することができます。
強い増殖力を持つということは、細胞が増えすぎて腫瘍になるリスクと隣合わせということでもあります。
一方、Muse細胞は腫瘍化のリスクはほぼないものと考えられており、iPS細胞との大きな違いとなっています。
Muse細胞は点滴投与が可能なため実用性が高く、安全に使用できると思われますが、多能性や増殖力には一定の限界があります。
iPS細胞では強い増殖力を活かし、細胞をシート状になるまで増殖させ移植する(加齢黄斑変性に対する治療や心筋細胞シート)といった方法が実際に行われています。
Muse細胞にこのようなことはできません。
再生医療に使用される細胞は複数あり、それぞれメリットとデメリットがあります。
対象とする疾患や患者さんの違いに応じた、最適な再生医療が確立されていくことに、期待が集まっています。

2021年現在のMuse細胞の最新情報・ニュース
2021年現在のMuse細胞について気になるニュースを2つご紹介します。
Muse細胞による脳卒中治療
2021年5月18日、Muse細胞を治療目的の製品として扱う生命科学インスティチュートから出されたプレスリリースは、これからの脳卒中治療が大きく変わることを予感させるものでした。
東北大学の新妻邦康教授らのグループが発表した研究結果によると、脳梗塞を発症して14から28日経過した患者に、このMuse細胞を一回だけ点滴で投与したところ、投与後3カ月後には40%、1年後には68%もの患者が、公共交通機関を介助なしで利用できるほど回復していました。
この成果は、Muse細胞を投与されなかった脳梗塞の患者よりも有意に多く認められました。
また、我われの作成する幹細胞の数パーセントにSSEA-3陽性のMuse細胞が同程度含まれていることが分かっています。
そして、Muse細胞以外にも組織を治す幹細胞は多く含まれています。つまり、Muse細胞だけを投与するのが良いのか、Muse細胞と組織を治す幹細胞をまとめて投与した方が更に良いのかに関しても更なる研究が待ち望まれます。
Muse細胞による新型コロナウィルス感染症治療
Muse細胞に関して注目するべき2021年のニュースとして、「新型コロナウイルス感染症に伴う急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する臨床試験開始」を挙げたいと思います。
ARDSというのは、コロナウイルス感染などが原因で、肺に強い炎症が起きて肺水腫(肺に水がたまってしまう)を発症する疾患です。
動物実験では肺の傷害に対してMuse細胞が肺機能改善に効果があることが示されており、実際に肺の細胞にMuse細胞が作用して肺水腫が軽減していました。
これには、Muse細胞の抗炎症作用、抗アポトーシス作用、および細胞増殖作用が関連しているものと考えられています。

まとめ
Muse細胞について、またMuse細胞を利用した脳卒中(脳梗塞・脳出血)の治療についてご紹介しました。
実際に多くの患者に対し、通常の医療行為としてMuse細胞を使用できるようになるまでには、まだまだクリアしなければいけない課題があります。
ただ最近は新型コロナウイルスによる肺炎後の治療に利用するなど、今後は脳出血をはじめとする脳卒中に限らず幅広い領域に応用されることが検討されています。
近い将来、Muse細胞、Muse細胞を含有する幹細胞群が多くの患者の治療に役立つことが期待したいものです。
最近、再生医療がニュースやテレビで頻繁に取り上げられるようになってきました。
ips細胞、ミューズ細胞など、皆さんも一度はお聞きした事があるかと思います。
また今後、再生医療分野の情報などもこちらで書かせていただければと思っております。
医療法人慶春会 福永記念診療所
〒536-0005 大阪府
大阪市城東区
中央1-9-33 泉秀園城東ビル2F
この施術ページの監修医師

貴宝院 永稔(きほういん ながとし)
医療法人慶春会 福永記念診療所 部長
ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役
学歴・職歴
- 平成15年3月
- 大阪医科大学卒業
- 平成15年5月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修
- 平成17年4月
- 大阪医科大学附属病院にて初期研修 修了
- 平成17年5月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科)レジデント就任
- 平成19年3月
- 大阪医科大学(リハビリテーション科) 退職
- 平成19年4月
- 大阪医科大学大学院医学研究科(リハビリテーション科)入学
- 平成21年4月
- 医療法人伯鳳会 はくほう会セントラル病院 入職
- 平成23年3月
- 大阪医科大学大学院医学研究科卒業
- 平成30年2月
- 福永記念診療所 部長に就任





